Heart―少年の心―
―――殺れ―――
その言葉に何のためらいもなく少年は動く。
ザシュッ…
少年の持つナイフは
まるで抵抗など無いかのように肉を裂き、
一瞬で相手の命を絶つ。
少年の表情は、変わらない。
無表情のまま、少年は去ってゆく。
なにも無かったかのように。
これが、いつもの事だった。
少年には何かが欠けているようだった。
心…そう、少年は心を失くしていた。
ただ命令に従うだけの、少年は人形だった。
ある日、少年にまた暗殺指令が下った。
いつものように命令どおり、
少年は相手の命を絶とうとする。
彼の兄代わりでもあった男の命を。
いつものように、無表情で。
男は動かなかった。
少年は何のためらいもなく彼の胸を斬り裂いた。
致命傷だった。
彼の胸と口から、血が溢れる。
空っぽな大人にはなるな――
裂けた胸からひゅーひゅーと音をさせながら男は言う。
空っぽには…人形にはなるな…
おまえ…は…こんなところにいる…器じゃ…ない…
おまえには…世界を変える…力が…あるんだ…から…
レイ…決して…決して…空っぽな大人には…なる…な――…
血に染まった手で少年の頬を撫でて、そして、彼は力尽きた。
少年はただ去るはずだった。
無表情で何の言葉も発せず、何にも興味を示さず――
いつものように、少年はただ去ってゆくはずだった。
しかし少年は動かなかった。
自分の――血に染まった手をただ見つめていた。
カシャン…!
少年の手から、ナイフが落ちる。
う……うわあぁあぁぁぁあぁ…!!
少年の口から声があがった。
とまどい、錯乱した、叫び声。
自らの手で、かけがえの無い人を殺めてしまった事に、少年はようやく気づいたのだ。
少年は泣いた。
地面に突っ伏し、声を上げて泣いた。
深い自責の念にとらわれて、
――少年はただ泣いた。
そしてその日、少年は心を取り戻した…
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